【書評】「シェアする美術〜森美術館のSNSマーケティング戦略〜」を読んで美術館を違う視点から楽しむ
こんにちは。本の庭です。
「シェアする美術〜森美術館のSNSマーケティング戦略〜」という本を読みました。
本の庭は美術館巡りも趣味の一つなのですが、
毎回、一緒に美術館に行く友人にこの本の存在を教えてもらいました。
完全にジャケ買いならぬ、装丁買いしました。
見てください、この表紙。
美術館好きとしては買うしかないですよね。
面白くてすぐに読破してしまったので、そのレビューをしていきます。
- 本の内容
- 美術館×SNS 日本では馴染みの薄い組み合わせのストーリーが面白い
- デジタルマーケティングとしての具体的なノウハウが実用的
- これは美術館ならではできるSNSマーケティングかも?という点も
- まとめ
本の内容
この本は森美術館のプロモーション担当の方が書いた、
森美術館は、六本木の森ビルの最上階にある
現代アートの作品を主に展示している美術館。
森美術館で2018年に開催された、
「レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」が入場者数1位で61万人を、
「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」では入場者数2位で53万人を記録している、今話題の美術館です。
ちなみに2018年の美術展覧会入場者数3位は、
国立新美術館で開催された
「ルーヴル美術館展 肖像芸術ー人は人をどう表現してきたか」の42万人だそうです。
私は森美術館の2つは行っていないのですが、3つ目のルーヴル美術館展にはいきました。ルーヴル美術館を超えるなんて、本当にすごいですね。
この入場者数を記録した背景にはSNSのマーケティング戦略が大きく関係しているようです。
実際に1位をとった「レアンドロ・エルリッヒ展」で、
SNS担当の人がどのような取り組みをしてきたのかや、
SNSを活用する際のノウハウ、注意点等が、
森美術館の広報・プロモーション担当者本人である、洞田貫 晋一朗氏の口から語られている作品です。
ちなみに私は以前、
「直島誕生 過疎化する島で目撃した「現代アートの挑戦」全記録」
という本も読んでいます。
この本は直島という四国の島の現代アートを活用して
観光客誘致に成功している島の担当者によって書かれた
現代アートの島と呼ばれるまでの裏側の様子が書かれた本でした。
これと少し似たところを感じましたね。
直島誕生は以前読んだ本なんですが、
面白かったのでまた時間ができたら読書レビューをしたいと思います。
美術館×SNS 日本では馴染みの薄い組み合わせのストーリーが面白い
美術館って、少し格式高くて、難しくて、静かに見る場所っていうイメージがありますよね。
写真を撮っていい場所というイメージもないと思います。
森美術館はそのイメージを覆して、写真もOK。
それどころか、SNSでシェアするのもOKという取り組みをしています。
撮影をOKにしたのは2009年から。
2009年はまだツイッターのインターフェイスが日本語対応になった直後だそうで、
インスタグラムというものが存在しなかった頃だそうなので、驚き。
森美術館は新しい価値を生み出していくこと、新しい試みに挑戦していくことに積極的であるそうで、いち撮影OKを日本に取り入れているんですね。
美術という近寄りがたいイメージのものと、
SNSという日常に近いものを掛け合わせることで、
アートの敷居を意図的に下げて、若い世代の人にも楽しんでもらうという挑戦がワクワクします。
私も美術好きとしては、もっと美術好きの人が増えてほしいなあと思っていて、
日本は特に美術館だけが高尚な趣味、みたいな位置付けになっているのがとても納得いっていませんでした。
海外の美術館もいくつか訪れてみて気づいたのですが、
ヨーロッパの美術館に行くと、訪れている年齢層がかなり幅広いです。
それは観光地というわけではなく、
小さな美術館でも、5歳くらいの男の子を連れたお母さんがいたり、
小学校の社会科見学のような形で、子供たちが美術館に座り込んで美術鑑賞をしていたり、という光景をよく見かけます。
もちろん日本とヨーロッパでは、美術館の数の差も違いますが、
ヨーロッパだとかなり日常に近いところに美術館があるような気がしています。
この撮影OK、SNSもOKという取り組みは、美術館と日常との距離を近づけることに役立つのではないかなあと思うと、すごく嬉しくなりました。
デジタルマーケティングとしての具体的なノウハウが実用的
私は美術館の裏側が知りたくてこの本を購入しましたが、
デジタルマーケティング、SNSマーケティング担当の方にとっては
かなり実用的なノウハウ本だと思います。
この本には「レアンドロ・エルリッヒ展」の舞台裏が冒頭に描かれているんですが、
「プール割り」キャンペーンで入場者数を増やす、
ハッシュタグは必ず正式名称で発信する、
インスタ映えを狙い過ぎない、
といった内容の話が書かれていて、具体的でSNSユーザーからしても納得の内容ばかりだったので、担当者はすぐに活用できるノウハウが詰まっていると思います。
特に私が面白いと思ったのが、「プール割り」キャンペーン。
これは、石川県金沢の21世紀美術館に展示されているレアンドロ・エルリッヒの《スイミング・プール》の作品を、
森美術館の「レアンドロ・エルリッヒ展」のチケット売り場で提示すると、入館料が割引になるというキャンペーンです。
SNSに投稿すると割引き、というSNSマーケティングはよく耳にしますが、
これはただ単に、拡散してほしい、というだけではなく、
森美術館と金沢21世紀美術館のSNSの「中の人」同士がお互い繋がっているんです。
どういうことかというと、
金沢21世紀美術館の中の人が、森美術館までこのプール割りキャンペーンを体験しにきて、それを21世紀美術館の公式ツイッターでつぶやく。
そのつぶやきを森美術館の中の人がリプライ付きでリツイートする。
といった風に、相互にプロモーションをし合っていることです。
繋がる、というのはまさにSNSならではの取り組みですよね。
この割引の存在を知ることで、あの21世紀美術館の代表的な作品である《スイミング・プール》の作品を作った作家ってこの人なんだ!と作家のことを知る機会にもなりますよね。
アートにおいて、必ずしもアーティストが誰かは重要ではないかもしれませんが、
私は、アーティストによって作品のテイストの傾向がわかったりするのも、
アートの楽しみ方のひとつだと思っているので、
この取り組みは面白いなあと思いました。
これは美術館ならではできるSNSマーケティングかも?という点も
どの業界のSNS担当者の人が読んでも、活用できるノウハウは必ずあると思いますが、
一方で、そうではないところも。
特に、筆者は終始「インスタ映えを狙い過ぎない」ということを述べていますが、
それはもともとプロモーションしたい商材が「インスタ映え」するアートだからこそできることでは?と思うところもありました。
宣伝っぽいSNSだとフォロワーはつかない、というのは最もだし、
私もユーザーとして、宣伝したい感がすごい出ている公式アカウントはフォローしたくない気持ちはわかります。
でも、例えば商材が食品だったり、日用品だったりすると、
どうしてもそのままではユーザーにインスタに載せたい!と思ってもらいにくいと思うんですよね。
そこでどうしても商品をインスタ映えするような色だったり形に変えざるを得ないと思うんです。
そこのアートと他の商材との壁をどう乗り越えるか、そこまで書かれていたら、
さらに良いのになあ、と思ったりもしました。
まとめ
と言いつつ、私はSNS担当者ではなく、ただ趣味としてこの本を読んだので、
面白かったですね。
裏側を知るドキュメンタリー的な要素もあって、
かつ書かれている内容はアートの特別な知識も、マーケティングの特別な知識も必要ないものだったので、
どんな人でも読みやすい本でした。
美術館っていってみたいけど、なかなか手を出せない、
という人は、こんな視点で美術館をプロモーションしているんだというのがわかる本なので
とっつきやすくなるかもしれないですね。
さて、今日も30分経過。